第45回卒業式を挙行しました。
体育館で、感染対策をしながら、厳粛な雰囲気で式が進みました。
校長式辞はこちらからご覧いただけます。
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第四十五回卒業式
式 辞
コロナウイルス感染症拡大の防止に向け、大きな制約を受ける日々が続いています。事態収束への道筋がまだまだはっきりと見えない中、皆さんの義務教育修了を記念すべき、そして卒業生の皆さんが初めて実際に参列する中学校の卒業式を、大きな制限の中で挙行せざるを得ないことを残念に思いますし、卒業生の皆さん、保護者の皆様には大変申し訳なく思います。とはいえ、今年も春は巡ってきました。本校第四十五回卒業生として巣立ちを迎えられた一三三名の皆さん、卒業おめでとうございます。
保護者の皆様方、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。こうして卒業の日を迎えられ、立派に成長した我が子の姿を目にして、感激も一入のことと拝察致します。本校の教育に、これまで多大なるご支援とご協力を賜りましたことに対し、改めて心より感謝申し上げます。
卒業生の皆さんは、楽しかるべき中学校生活の三分の二以上を、コロナ禍で過ごしました。無観客で行わざるを得なかった体育大会や合唱コンクール。期日を延期した上に目的地も大きく変更して実施となった修学旅行。全員が前を向き默食を強いられた給食の時間。そして友達とのマスク越しのコミュニケーション・・・。奪われた楽しみや制限を受けた自由を数えればきりがありません。
ただ、思い起こしてください。その中を皆さんがどう生きたか。
皆さんは、コロナ禍の学校生活を少しでも明るくしようと、柔軟な発想でたくさんのイベントを生み出しました。VTRを使った「仮装大賞」。中庭をうまく利用しての発表会「ふれあいタイム」。男声合唱団のたくましい歌声、女声合唱団の清らかなハーモニー。次々に繰り出される楽しい企画で、校内に前向きなムードを広めてくれました。
我慢を強いられた二年間、苦しくなかったはずはありません。その苦しさを静かに受け止めながら、皆さんはそれを明るい笑いに転化しようとしてきたのです。南部中学校に代々引き継がれてきた行事や、授業スタイルが例年どおりできなくなった代わりに、そこに込められた精神「南中スピリット」を大切にしながら、工夫を凝らしたこれまでにない取組が生み出されました。皆さんが生み出した取組や、その心意気は、今や南中の新しい文化に昇華されつつあります。
そんな皆さんの姿が私の中では、最近読み終えた須賀しのぶの小説「革命前夜」の一節と重なります。
この作品は、政治理念の違いから東西二つの国に分断されていたかつてのドイツが舞台で、一九八九年の「ベルリンの壁崩壊」で、ドイツが統一に向かっていく直前の様子が、国民の自由が大きく制限されていた東ドイツの側から日本人留学生の目を通して記されています。抑圧されてきた東ドイツ国民の中で自由を求める気風が少しずつ広がり、それが徐々に大きなうねりとなっていく課程が、時にサスペンスの趣向も交えながら描かれます。
旧東ドイツの町ドレスデンでは、第二次大戦で亡くなった人たちを慰霊するために、激しい空襲で町が壊滅した日を記念日として、毎年その中心にある教会を、手に手に蝋燭を捧げた大勢の人たちが静かに埋め尽くす光景が見られます。
東ドイツの人たちが、国家の抑圧に抵抗の意志を示し始めた頃、その姿を目の当たりにした主人公は、以前ドレスデンで出会った、教会を埋め尽くす無数の光の荘厳さと、怒りや悲しみを抑制した、人々の厳粛な沈黙を思い浮かべ、こんな感情に包まれます。
闇夜を照らしていた、無数の蝋燭の光が思い浮かんだ。
あのときも彼らは、声高に叫ぶようなことはしなかった。口を噤み、ただじっと強い意志をもって前を見ていた。
「焔を守れ」
無意識のうちに、僕はつぶやいていた。
焔を守れ。もし焔を守らねば、思いもよらぬうちに、いともたやすく風が焔を吹き消してしまおう。
彼らはずっと、守り続けた。どんなにか細い焔でも。
激しい焔はすぐに燃え尽きてしまいます。苦しさと向き合うとき、その刹那生まれる怒りを爆発させるより、心にともった小さな焔を静かに育てた方が、苦しさを乗り越える手立てにたどり着きやすいのかもしれません。ただ、小さな焔は、それ故に、大切に守らなければたやすく吹き消されてしまいます。工夫が必要なのです。
皆さんはコロナ禍で過ごした中学校生活で、苦しみと静かに向き合ってきました。授業中、友達との距離を意識しながら、音量を控えつつマスク越しのコミュニケーションを続け、友達の意見を丁寧に聴きながら自分の考えを深めてきました。不自由な中でも、友達同士の関係を深く確かなものに育んできたのです。その姿勢は、修学旅行の思い出として、多くの人が「あの三日間で、それまであまりつきあいのなかった友達と親しくなれて嬉しかった」「ペンションでじっくり友達と関わって、友達の新しい一面に出会うことができた」と、友達との関係の深まりを嬉しそうに語ってくれたことともつながっています。不自由に絶望せず、投げやりにならず、仲間たちと穏やかにつながりながら、その苦しさを乗り越える力を蓄えてきました。コロナで吹き消されそうになった南中の伝統・・・「知をひらく授業」の中で、学びを深める風土、行事の成功に向かってまとまっていくことで先輩から後輩に受け継がれてきた「南中スピリット」・・・私たちにとって大切なもの、消してはならない焔を、皆さんは「明るく笑おうとする」工夫の中で守り抜いてくれたのです。
「南中スピリット」の焔を守り抜いてくれた皆さんに、心からの感謝を述べたいと思います。その焔は、生徒会がリードして「BTSキャンペーン」なる取組を始め、自分たちの生活を見つめ直し、きまりも見直そうしている後輩たちに確かに受け継がれています。
こうして振り返ってみると、皆さんの中学校生活が、コロナによって失われた三年間ではなかったことがわかります。むしろコロナ禍故に、知惠を合わせ、工夫を凝らして、新しい時代の流れをつくり出した三年間になりました。「新しい時代はつくれる」そのことを皆さんは実証したのです。胸を張り、希望をもって次のステージに踏み出してください。
皆さんの健闘を心から願い、その人生に幸多からんことを祈って式辞といたします。
令和四年三月三日
岩倉市立南部中学校長
有 尾 幸 市