卒業式の校長式辞を以下に掲載します。
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第四十四回卒業式
式 辞
コロナウイルス感染症拡大の防止に向けた突然の休校からちょうど一年が経過します。事態収束への道筋がまだまだはっきりと見えない中で、皆さんの義務教育修了を記念する卒業式を、大きな制約を受けながら挙行せざるを得ないことを大変残念に思いますし、卒業生の皆さん、保護者の皆様には大変申し訳なく思っています。とはいえ、厳しかった冬を乗り越え、今年も春は巡ってきています。本校第四十四回卒業生として巣立ちを迎えられた一二四名の皆さん、卒業おめでとうございます。
保護者の皆様方、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。こうして卒業の日を迎えられ、立派に成長した我が子の姿を目にして、感激も一入のことと拝察致します。本校の教育に、これまで多大なるご支援とご協力をいただきましたことに対して、改めて心より感謝申し上げます。
この一年、私たちはコロナウイルスに翻弄される日々を送ってきました。例年通りといかない上に、多くの我慢を強いられる毎日の中で、皆さんの心にかかる負荷は、決して小さくなかったはずです。そしてそれは、まだしばらく続いていきます。
そんな毎日の中で、最近、私の頭の中を巡る詩があります。
子ども向けにつくられた歌、「にじ」の歌詞です。テレビドラマの挿入歌として聞いて以来、耳から離れません。中学校の卒業式には不似合なのを顧みず、一節を紹介します。雨の情景を思い浮かべながら聞いてください。
あの子の遠足 一日のびて
涙乾いて くしゃみをすれば
雲が流れて 光が差して
見上げてみれば ・・・にじが にじが 空にかかって
きみのきみの 気分も晴れて
きっと明日は いい天気 きっと明日は いい天気
雨が降るからこそ虹は空を彩ります。コロナ禍もいつか終わるときがきます。そのときを、この詩のように、どこかおおらかに待ちたいものです。ただ、コロナ禍の後に世界に架かる虹は、今の私たちの考え方や行動によって、その様相が変わってきます。コロナ後の世界に架かる虹の色を決めるのは、私たち自身です。
イスラエル生まれの歴史学者で、「知の巨人」と呼ばれ、その言動が世界中から注目されているユヴァル・ノア・ハラリ氏は、現在の世界的危機に際して、世界各国のメディア等でコロナ後の世界を見据えた提言を数多く行っています。彼は歴史学者の立場から、これまでに世界で起こったいくつもの感染症の検証を行いました。その結果、彼は「ウイルスは歴史の行方を決めない。それを決めるのは人間である」と結論づけ、「ポストコロナ(コロナ後)の世界のあり方は、私たちが下す様々な決定にかかっている」と、コロナ禍が収まった後の世界に対する、地球上に暮らす、今の私たちの責任を説きます。ここで彼が重要視しているのは次の点です。
「私たちが直面している最大の危険はウイルスではなく人類が内に抱えた魔物・・・強欲と憎悪と無知だ」
落ち着いて考えれば当たり前のことですが、コロナ対策は世界の隅々まで行き届かなければ、意味がありません。ワクチンが一部の人や国に独占されたのでは、ウイルスは変異しながら、また世界を覆い尽くしていくからです。世界の国々が同じ目的を共有しない限り、世界に幸せは訪れません。
コロナ禍の情勢を伝える昨今の報道等から、自国の利益ばかりを優先する考え方が世界に広まりつつあること、「自粛警察」のように、他者を必要以上に非難する傾向が強まっていること、さらには根拠がはっきりしない噂に動揺し、むやみに不安をかき立てられる状況が、人々の中に広がりがちであることを、私たちは知っています。
ハラリ氏は、そうした傾向を戒め、人と人とが、国と国とが手を携えるために、今こそ互いの権利を尊重し、科学の力を信じる世界を築くことの重要性を説きます。そして、私たちがその道筋で今の危機を乗り越えたとき、「世界は今までより格段に反映し、円満なものとなる」と、彼は断言します。
コロナ禍には必ず終わりがあります。その時世界がどうあるべきか、その姿をしっかりとイメージすること、コロナ後に世界に架かる虹を具体的に思い描くことで、今私たちがなすべきことが見えてきます。
卒業生の皆さん、この南部中学校での生活を振り返ってみてください。
「知をひらく」授業の中で、皆さんは頭を寄せて意見を聞き合い、自分の考えを深めてきました。コロナ禍で多くの制約が立ちはだかる中でも、皆さんは工夫しながら、友達同士の関わりを止めず、「今だからこその」修学旅行を成功させ、体育大会をやり遂げました。世界の大ピンチを、みんなの知恵で、見事チャンスに変換してきましたね。
皆さんは、たくさんの国の人が自然に交わり合う南部中学校で、知恵を武器に互いの意見や人格を尊重し合って学校生活を築いてきたのです。コロナ後の世界を豊かにする方法を、まさに当たり前のように実践してきたと言えます。
この三年間の歩みに自信をもって、おおらかな気持ちで世界に虹が架かる日に向かって行ってください。その虹の下で、みなさんが今以上に豊かな世界の一員として歩み続けてくれることを信じています。
皆さんの健闘を心から願い、その人生に幸多からんことを祈って式辞といたします。
令和三年三月三日
岩倉市立南部中学校長
有 尾 幸 市